オムライス


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 子供のころ、デパートのレストランのオムライスが好きだった
 最近はあのころのようなオムライスになかなかお目にかかれず
 寂しい思いをしている

 「オムライスがおいしい」という風評を耳にし
 行ってみた店がある
 ゆるゆるのスクランブル・エッグをドームみたいに固めたものを
 ライスの上に乗せ
 客がスプーンを入れるとドームがはじけて流れ落ちる
 という小賢しげな細工だけで違和感があるのに
 最悪なのは
 ライスの周りのソースがデミグラス・ソースであること
 そして口にしてみると
 なんともお上品なバターの香りに止めを刺される

 こんなものはオムライスじゃなぁぁぁぁぁい
 なぜ いつのまに 誰が
 私のオムライスをこんな遠い世界のものにしてしまったのか

 オムライスはこんなものではない
 デミグラス・ソースなんて勘違いもはなはだしい
 その辺で売ってるチューブ入りのトマトケチャップでいいんだ
 そのままのトマトケチャップをタップリかけてくれるのがいいんだ
 タマゴは薄焼きタマゴでいいんだ
 薄焼きタマゴでくるんでくれるのがいいんだ
 バターなんかで上品に炒めなくてもいいんだ
 サラダ油でいいんだ
 上品な香りなんかしないほうがケチャップの味が際立つんだ

  あとでケチャップが足りなくなると悲しいので
 最初に薄焼きタマゴの表面全体にまんべんなくケチャップを塗る
 それからスプーンを入れるのだが
 ここで勝負のときが訪れる
 果たして
 中身はハムか鶏肉か
 この差は大きい
 オムライスというのは洋風親子丼でなければならない
 ダシ汁の替わりにトマトケチャップを使うのだ
 タマゴと鶏肉が出会い
 「会えてよかったね」
 とお互いが喜ぶところから絶妙のハーモニーが生まれる
 これがハムだったら
 タマゴは
 「お母さんはどこ?」
 と悲しむではないか
 それが食する人に伝わることを
 プロの料理人なら知っている
 タマゴに包まれるものは
 チキンライスでなければならない
 ハムライスではダメなのだ

 最近なかなかこういうオムライスに出会えない
 欧風レストランなどというコジャれた店はまず裏切られる
 間違いなくデミグラス・ソースとバターのお上品だ
 「ラーメン 中華」
 という看板が出ているような庶民的な中華食堂のメニューに
 もし オムライス があったなら
 これは間違いない
 薄焼きタマゴにトマトケチャップのかかった
 真性オムライス に出会えるだろう
 デミグラスやタマゴドームのようなマガイモノは
 絶対に出てこない
 これは私が請け負おう



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